大阪高等裁判所 平成7年(ネ)3167号 判決 1996年1月30日
控訴人兼附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)
國定久信
右訴訟代理人弁護士
鎌田哲夫
被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)
八木誘藏
右訴訟代理人弁護士
藤井義継
主文
一 原判決第一、三、四項を次のとおり変更する。
1 控訴人の本件債務不存在確認の訴えを却下する。
2 控訴人は被控訴人に対し、金二一七万八四五八円及びこれに対する平成二年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
二 本件附帯控訴を棄却する。
三 訴訟費用(附帯控訴費用を含む)中鑑定人大島徹に支給した鑑定費用を除くその余の費用は、第一、二審を通じ三分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とし、右鑑定費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 申立て
一 本件控訴について
1 控訴人
(1) 原判決を次のとおり変更する。
① 被控訴人は控訴人に対し、原判決添付別紙記載の交通事故(以下「本件交通事故」という。)に関し、控訴人の被控訴人に対する損害賠償債務が一二万五八六六円を超えて存在しないことを確認する。
② 一二万五八六六円を超える被控訴人の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は、控訴人の負担とする。
二 附帯控訴について
1 被控訴人
(1) 原判決を次のとおり変更する。
① 控訴人と被控訴人との間で、本件交通事故に関し、控訴人の被控訴人に対する損害賠償債務が金三四一万五九三七円を超えて存在しないことを確認する。
② 控訴人の被控訴人に対する金四五万円及びこれに対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める請求を棄却する。
③ 控訴人は被控訴人に対し、金三四一万五九三七円及びこれに対する平成二年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(請求の減縮)。
(2) 訴訟費用は、第一、二審を通じ控訴人の負担とする。
2 控訴人
(1) 附帯控訴を棄却する。
(2) 附帯控訴費用は、附帯控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
争いのない事実等及び争点を含む事案の概要は、原判決の事実及び理由欄「第二 事案の概要」(原判決二枚目裏七行目から四枚目表二行目まで)記載のとおり(ただし、三枚目裏八行目「治療を受け」の次に「、平成三年二月一八日症状固定後も稲見外科胃腸科(通院一五六日間)へ通院し」を付加する。)であるから、これをここに引用する。
第三 証拠
原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
第四 当裁判所の判断
一 当裁判所は、主文記載の限度内で当事者双方の請求を正当として認容し、その余を理由のないものとして棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加・訂正するほかは原判決の事実及び理由欄「第三 争点に対する判断」(原判決四枚目表四行目から一〇枚目裏二行目まで)記載のとおりであるから、これをここに引用する。
1 四枚目表六行目「六の1ないし4」の次に「七」を付加する。
2 五枚目表九行目「本件事故当初、」から五枚目裏一行目までを「そして、平成三年二月一八日症状固定の診断を受けたが、その後も稲見外科胃腸科へ一五六日間(同年七月二三日まで。実通院日数一二日)通院し、国民健康保険で治療を受けた。被控訴人が右各病院で受けた治療内容は、点滴、内服薬の投与、外用薬の使用、理学療法等である。被控訴人には他覚的所見としては当初第五頸椎右、胸鎖乳突筋後方の腫大と皮膚溢血による着色がみられたが、CT検査等で異常は発見されず、被控訴人の症状は、眩暈、頭頸部痛、上肢のしびれ、視力低下等である。」と訂正する。
3 同八行目「クラウン」とあるを「トヨタクラウン」と「ファミリア」とあるを「マツダファミリア」とそれぞれ訂正する。
4 六枚目裏六行目から七枚目裏七行目までを次のとおり訂正する。
「2 大島鑑定は、被控訴人車が受けた衝撃加速度についての力学的分析を、同車のバンパーの凹み状況と参考文献Ⅰによって検討しているが、ここで資料とされた同車の凹みは実測ではなく、写真判定であって必ずしも正確なものではないこと、同文献の実験データは本件事故車とは車種も重量も異なる車両を使用した僅か四例にすぎないこと、本件事故の衝撃加速度の推定は右文献データを車両重量比で補正し算出する方法でなされており本件事故条件の全てについて考慮されているものではないこと等の問題がある。また、被控訴人の車両は、衝撃で0.5ないし0.7メートル前に押し出されて、後部バンパーのみでなく、後部ドアーの交換も必要な程度の破損状態であったこと、被控訴人は本件事故時に受けた衝撃につき、「飛び上がるような感じで車両の天井に頭が接触した」旨供述しているが、これは特に強く印象に残った記憶を供述しているものであり、他の作用機序がなかったとはいえないこと、衝撃加速度(G)の程度と身体の損傷の程度とは必ずしも比例関係にあるものではなく、物理的には軽度の衝撃によっても身体には重大な傷害が生ずる場合もありうることなどの事情を合わせ考えると、前記考察のみから被控訴人の受傷は本件事故と因果関係がないとした大島鑑定はこれを採用できず、逆に前記認定にかかる事故態様や車両の損傷の程度及び医師の診断を総合すると、被控訴人の受傷と本件事故には因果関係が認められる。
そして、被控訴人は本件事故時から症状固定まで約六か月間治療を受けている(症状固定後の治療費については請求がない。)ところ、これについて控訴人は被控訴人の受傷と治療には因果関係がないと主張するが、被控訴人が本件事故前に何らかの傷害を負っていたとか他の傷害保険を受領したなどの事実は認められず、むしろ被控訴人は室内装飾業を自営しており、仕事のできる職人は被控訴人一人であって被控訴人がいなければ仕事をすることができない状況にあったが、医師から入院を指示されて止むなく入院治療したこと等の事情が認められ、また初診時から治療にあたっていた稲見医師の診療行為にも格別不審な点は見当たらない。そうすると、被控訴人が受けた右治療は、症状固定までの全期間を通じて本件事故による傷害の治療として必要なものであったとみるのが相当であり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。」
5 八枚目裏一〇行目「被告本人」の前に「乙七、」を付加する。
6 九枚目表一行目及び同九行目「七〇万九五七一円」とあるを「四七万三〇四七円」と訂正し、二行目「実通院日数」の次に「治療内容」を付加し、三行目「九〇日」とあるを「六〇日」と訂正する。
7 同一〇行目「90」とあるを「60」と、同行「709,571」とあるを「473,047」とそれぞれ訂正する。
8 同末行「(請求及び認容額・八五万円)」とあるを「(請求額・八五万円)六五万円」と、九枚目裏二行目「八五」とあるを「六五」とそれぞれ訂正する。
9 一〇枚目表七行目「二六三万三七三七円」とあるを「二一九万七二一三円」と、同八行目「二三八万四九八二円」とあるを「一九四万八四五八円」と、それぞれ訂正する。
二 そうすると、控訴人の本訴請求のうち貸付金四五万円及びこれに対する平成三年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による利息ないしは遅延損害金の支払を求める請求は理由があり、被控訴人の請求は、本件事故に関し損害賠償金二一七万八四五八円及びこれに対する本件事故の日である平成二年九月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、被控訴人のその余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。
また、控訴人の本件交通事故に関する債務の不存在確認を求める訴えは、被控訴人から当該債務について給付請求訴訟が提起され、右判示のとおり給付を命じる判断がなされる以上、これと別に債務の不存在確認を求める訴えの利益を欠くに至ったというべきである。したがって、控訴人の右不存在確認の訴えは確認の利益を欠き却下をまぬがれない。
第五 結論
よって、控訴人の債務不存在確認を求める訴えを却下し、貸金返還請求を認容し、被控訴人の損害賠償請求を右の限度で認容し、その余は失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決第一項、三項及び四項を右のとおり変更し、被控訴人の本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用(附帯控訴費用を含む)の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 小田八重子 裁判官 田中澄夫)